ミラノサローネ 2009(24)-バイオリンを作るー2
Date:09/3/20
茅根健さんは語ります。「ドイツでは、イタリアの古い名品のコピーバイオリンを作ったほうがビジネスになるんです。そして、化学処理をしたり色々と工夫して古くみせるわけですよ。もう数十年続いている傾向のようです。イタリアでは、そういうの嫌うんですけどね。だからぼくが新作をドイツ人に見せると『君の作品はイタリアンだけど、古いイタリアのバイオリンはこうじゃないよね』と指摘してくるんですよね。これはフランスでもそうです。それこそ17世紀のストラディバリ以降、あらゆるデザインが出尽くした感のあるバイオリンですが、イタリアでは新作に挑戦するのがいいとされるんです」

弦楽器修理は英国のレベルが一番との評判のようですが、茅根健さんは、マイスターでなくても工房が開ける時代になっても職人としての信用力をもつマイスター文化のあるドイツで腕を磨きたいといいます。19世紀後半から20世紀前半にかけ、ドイツも含め各地で板を厚くしたり音を力強く出す工夫などをしてきたのですが、第二次世界大戦以降、「あの時の試みは間違いだった」といわれ、古いタイプのバイオリンに戻ってしまったのです。そういえば、マウロ・ロレンツィ氏が、同じように戦後のある時期から古いナイフをベースにした商品が米国に出てくるようになったと話していたエピソードを語っていました。
ぼくは茅根さんの話を聞きながら、この古いバイオリンのコピーが好まれる傾向は、バイオリンという楽器そのもののがもつ背景とリンクしているのではないかと考え始めました。その背景とはバイオリンが使われる音楽の市場のことです。バイオリンが対象とするビジネス市場で圧倒的な力をもつ西洋クラシック音楽です。近代文学の場合、ある作品を一生のうちに5-6回も読めば「私の座右の書」です。しかし、クラシック音楽は、ある作品を一生のうちに100回近く聞くことも珍しくないでしょう。多くの現代音楽が生まれてきたにも関わらず、このような市場性を獲得していません。

カーテン越しに新作とコピーの二つのバイオリンの音色を聞いて、新作の音のほうが良いと言う人も多くいるようです。このテストは、プリアチェアをデザインしたピレッティが語った、目隠しテストでプリアチェアは座り心地ではなく視覚で評価を受けたという話を想起させてくれます。人の感覚はあてにならない、いや総合的である。どちらも言えますが、「古いデザインのバイオリンは良い」とする価値をクラシック音楽市場とともに維持する、その仕掛けと戦略性にぼくは大いに感心します。
茅根さんに良い音とは?と聞くと、「力があり、バランスがあり、そして深みがあること」と定義してくれました。新しい境地が開かれることを期待しています。
以下、ドイツニュースダイジェストというオンライン情報での彼のインタビュー記事です。
http://www.newsdigest.de/newsde/content/blogcategory/137/98/






