ミラノサローネ 2009(20)-ロレンツィ氏が語るー2

1929年、モンテナポレーオネ通りに初代ロレンツィが自分の店を持ちました。最初は刃物を研ぐことがメインの稼ぎでしたが、顧客の要望を聞いて、自分たちでデザインし、職人が作るというサイクルを続けているうちに、自分たちのオリジナル製品が増えていきました。1959年、三人の子供が店を継ぎ、そのうちの一人は後に独立します。1960年代、葉巻やパイプブームがあり、葉巻やパイプを扱うようになります。これも葉巻のカッティング等で刃物が必要ですから、あくまでも刃物の延長線です。今回お会いしたのは、三代目のマウロ・ロレンツィ氏ですが、伯父さんにあたる二代目アルド・ロレンツィ氏も現役です。

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ここの従業員は全て男性で、店でお客さんの対応する人達は皆30代後半以上です。最低5-6年、倉庫でモノをよく知ってから初めて客の前に立たせてもらえるのです。自分で商品に触り、知識を仕入れ、扱い商品に愛情を感じないで、どうしてお客さんの前に立てるのだ?というのです。刃物のよさを説明するのは難しく、それこそスペック表があるわけではない。それでメッセージを伝えるには、長期間の下積み生活が必要です。5-6年というのは、やっと店に立てるときであり、それなりの仕事ができるようになるのが15年程度。20年で一人前という世界です。

つまり、製品そのものの理解に時間がかかり、かついわば抽象性の高い製品であるということですが、それだけでなく、彼らの扱い商品点数はなんと1万5千点にものぼるということもあるでしょう。セレクトショップとしては膨大な点数です。これを全てPC管理しているわけではなく、約半分しかデジタルデータ化していません。後は手書きです。それが「商品知識が身につく」コツだといいます。お客さんの要望を聞いて、ピンとくるには、商品と触れる絶対的な時間量が要求されるのです。どの店員も一流ホテルのコンシェルジュのようなムードがあります。そして、お客さんもそれなりの年齢以上。「どうして、人生経験の乏しい30代以下で良いモノを見極めることができるのか?」と言われたとき、ぼくもハッとしました。

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ユーザーインターフェースの仕事をしていると、新しい感覚や考え方の担い手として、10-20代の人たちの動向をぼくもよく見ています。そのときは、それでいいのですが、ある重みと深みのある領域では、それなりの人生経験をお客さんに要望して当然なのだということを、「大人の文化」のあり方として再認識しました。それは、ロレンツィの店の方針を聞けば分かりますが、彼らは「お客様のいうことは全て正しい」という考え方をしません。お客さんはもちろん大事ですが、お客さん、作り人、売る人、これらの全ての関係が良好でそれぞれがハッピーであることを目指すのです。そのためロレンツィは、「その部分が壊れたら、新しいモノを買ったほうがいいですよ」とは決して言いません。修理をして使えるようにし、それを何度も繰り返し、そのモノが次世代に継がれることが、彼らの希望なのです。

かつて英国の紳士は、新しい靴は執事に履き慣らしてもらい、その後に自分で履きました。常にメンテナンスを怠らず、靴底やかかとを修理し、できるだけ長い間使用する。それが紳士のスピリットとして評価されました。「まさしく、これと同じ考え方を我々はするのです。良いモノを長く使う。それによってそのモノがより磨かれる」と、マウロ・ロレンツィ氏は語ります。

「ブランドで売るということはしない。我々はモノを売るのです。それを気に入ってもらい、それがロレンツィの商品だと後で分かればいいのです。ですから、商品のなかで、我々のブランド名はできるだけ小さく隠れるような存在になっています」と言うので、「じゃあ、この隣近所のファッションブランド店とは”戦っている”わけですね」と質問すると、「ある意味ね・・・」という答えが返ってきました。

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Category さまざまなデザイン, ミラノサローネ2009 | Author 安西 洋之